2017-09

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挑戦状の理由【お試し版】 - 2009.12.09 Wed

 『挑戦状の理由』のお試し版です。
 作者:永坂暖日


 現状では少し心許ない、と雇い主であるテギが云い出したのは、出発の三日前の夜だった。
「妙な魔物が出るらしいし。攻撃系魔術の得意な術師がいる方が、安全度は上がるわね」
 テギの言葉に最初に同意したのは、魔術師であるキルテアだった。彼女は攻撃系の魔術はからきし使えないので、戦闘時は結界を張ってテギたちを守るのが主な役目なのだ。
「魔術は使えなくても護衛の数をいまより増やすだけでも、その分安全度は上がるだろう」
 経験上、攻撃系魔術の得意な術師が、そうではない術師に比べて数が少ないことを知っているガランは、眉をひそめた。いきなり欲しいと云って、すぐに見つかる人材ではないのだ。
「そりゃそうだ。でも、人が増えれば人件費も食費もかかる。俺の云うことを聞かない奴だって出てくるかもしれない」
 護衛頭のハールズが、本気とも冗談ともつかない顔で云う。
「どうせ新しく雇うなら、素直でかわいくて若い子がいい」
「まあ、ハールズの願望はともかく。人件費やらなにやら考慮すると、加えられるのは一人。攻撃系が得意な魔術師なら、なおいい」
 ハールズに対して、テギの表情は真剣だった。魔物の襲撃に遭った際は人一倍怯えている彼の姿を思い起こせば、奇妙な魔物に対して警戒心を強くするのは無理からぬことに思えた。
 そして出発前日、求めていたとおりの人物が見つかったことを、ガランは聞かされた。
「よく見つかったな」
 テギが護衛を増やしたいと云い出した翌日から捜し始めたのだから、実質的には二日で見つかったことになる。ガランが云うと彼は嬉しげに、
「運が良かったんだよ。幸先がいいね。きっと無事に辿り着ける。商売大成功だよ」
 なにもそこまでは、と呆れるほど楽観的になっていた。

 新しい護衛が見つかったことが、ガランにとっても幸運で幸先良いことだったのか、このときはまだ、そしてとある一件を経たあとでもまだ、分からなかった――。

 0.

 文字通り叩きつけられた。
 ただし、痛みや衝撃はなにもない。『それ』を彼に叩きつけた相手は、それなりの勢いをつけていたのだろうが、モノがモノだけに衝撃を与えるには至らなかったのだ。
 ガランは、彼の胸のあたりに叩きつけられた『それ』がひらひらと地面に落ちるのを見届けてから、のろのろとした動作でを拾い上げた。
 『それ』は三つ折りにされた紙だった。その一面に文字が躍っている。ガランはその文字列を見て、眉をひそめた。文字が読めなかったわけではない。難しい文字や文法でなければ、字は読めるし、書ける。力んで書いたことがうかがえる文字だった。
 『それ』をガランに投げつけた張本人に視線を移した。目の前に立つ少女は、どういうわけか目を輝かせてガランを見ている。彼がいま手にしている紙を、彼女が叩きつけたのは間違いない。少女が彼の目の前にやって来たかと思うと、ものも云わずに問題の紙を懐から取り出して叩きつけたのだ。
 自分が手にしているものと、目を輝かせている少女の間に相当な落差を感じ、ガランは改めて手元に視線を落とした。

 “挑戦状”。

 わずかに青みがかった黒のインクで書かれた文字は、どんな角度や方向から読もうとしても、『挑戦状』としか読むことができない。
「――なんだ、これは」
 少女に尋ねないかぎり、この紙がナニモノか――挑戦状以外のナニモノかの可能性を見出すことはできそうになかった。
「挑戦状です」
 しかし少女は、これ以上にないほど明瞭とした声で、ガランが手に持っているものがナニモノであるかを告げた。
 張本人によって正体を決定づけられた挑戦状から、再び少女に視線を戻した。彼女がガランに叩きつけたものが挑戦状だとして、なぜ彼女はわずかに頬を赤らめているのか。武者震いをしてその興奮で顔が赤らんでいるというよりは、はにかんでいるために顔が赤いという方が適切だと思えるのだ。ガランは右のこめかみを親指で押さえた。
「……エナ。どういうつもりだ」
 挑戦状と書いてある時点でどうもこうもない気はするが、そもそも彼女――エナマーリエに挑戦状を叩きつけられる理由が、ガランには分からなかった。ガランとエナマーリエは知り合って数日しか経っていないとはいえ、同じ雇い主の下で働く護衛仲間だ。彼女との間に悶着があったわけではないので挑戦されるいわれはない。ガランが覚えていないだけかもしれないが、とにかく、身に覚えがない。
 そもそも、護衛仕事の最中に、仲間割れとは少々趣が異なるとはいえ、同僚同士で戦うのは結果の如何に関わらず今後に支障をきたす可能性が大きい。
「驚いたかもしれないけど、あなたと戦いたいんです」
 確かに驚いたが、ガランはそれを口にせず代わりにたずねた。
「――俺と『一緒に』戦いたいのではなく、か?」
「もちろん」
 エナマーリエが冗談を云っているとは、残念なことにどうしても見えないガランは、嘆息すると挑戦状を彼女に差し出した。
「俺と戦いたい理由はどうあれ、これを受け取ることはできない」
 突き返された挑戦状を一度見て、それからエナマーリエはガランを見上げる。
「どうしてですか」
 さっきまで輝いていた青い瞳がさっとかげる。理由はどうあれそれが自分のせいだと思うと、小さな子どもに対してすげなくしてしまったようで、ガランの胸がわずかに痛んだ。それを吹っ切って、彼は指を二本立てて示した。
「理由は二つある。ひとつ、俺もエナもいまは護衛仕事の最中だからだ」
 そこで一度言葉を切る。エナマーリエが唇を固く引き結んでいた。
「ふたつ、悪く思わないでほしいが、駆け出しの挑戦を受けるつもりはない」
 ガランは三十二になるが、エナマーリエは十六になると云っていた。つまり、彼女はまだ彼の半分しか生きていない。
 二人とも、護衛仕事や魔物退治によって糧を得る『流れの剣士』だ。しかし、エナマーリエはまだ本当に駆け出しで、彼女の人生と同じくらいの時を剣士として生きてきたガランとは、経験値の差は歴然としている。彼が少女の挑戦を受けてしまえば、きっといま以上の罪悪感を覚えるのだろう。
「ガランさん。わたしは、自分の実力も顧みずに挑戦したいと云っているわけではないんです」
 まだ数日だけの付き合いとはいえ、彼女が思慮の浅い娘ではないことをガランは知っている。それだけに、エナマーリエの行動の理由がわからない。いまの彼女の言葉を聞いてはなおさらである。
「それじゃあ、どうして俺に挑戦したいんだ」
 受けるつもりはない。しかし、何故エナマーリエがこんな行動に及んだのか、今後同じような事態を避けるためにも理由を知っておきたかった。
「どうしても確かめずにはいられないことができたから」
 少女の瞳にあったかげりは少しずつ消え、輝きが戻っていく。
「わたしは、あなたのことが好きなのかもしれない。それを確かめたいから、戦いたいんです」


《以下、紙ふうせん創刊号に続く》

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